[1]雫
【Snow Licht】
かれこれ2年前に書いた小説を、リメイクしてみました!
※アテンション!※
・物語の都合上オリキャラが出ます。
・俺設定です
・デスコールは出ません
以上の事柄がダメな方はブラウザバック推奨です。
2016/04/16 22:23
[2]雫
※プロローグ※
~幻の里~
暗い。闇のように暗い部屋だった。
窓が無いのか、風が通る感覚は無い。だが、その割には空気が濁っている気配は無い。
ぽっと、灯火が生まれた。蝋燭だった。人影が蝋燭を持って部屋に入ってきたのだ。
人影が動くたびに、灯火は追いかけっこをする様に辺りを照らす。
部屋は書斎のようだった。本や束ねられた紙が本棚を埋め尽くしている。
人影はその中の一冊を取り、床に座る。蝋燭立てを左側に置いて。
その本はスクラップブックのようだった。人影はまるで謳う様に読み始めた。
昔、気が遠くなるような遥かな昔。とある場所に、1つの里があった。
その里には高度な知識、技能を備えた民達が暮らしていたという。
彼らの技術の1つに雪がある。光り輝く雪――
常に降り続けるその様は、まるで守護するかのよう。
外の民達は里のことを『光の雪』の意を込め『Snow Licht』と呼び、恐れ敬い、親交を深めていた。
が、ある時を境に里は姿を消し、2度と民達は現れる事はなかったという。
時が経ち、我等の記憶から『Snow Licht』が姿を消そうとしているが、今でもわが国、イングランドの何処かに存在しているといわれている。
――アンドルー・シュレーダー著
『幻の里に関する一考察(一部抜粋)』
パタンと、スクラップブックを閉じる音が響く。
蝋燭の灯に照らし出されたその顔。瞳を閉じた横顔は、何を語ろうとしているのか。
白銀と見紛う髪が、揺れる。蝋燭の灯に浮かび上がる様は、日没の陽光を受けた海のよう。
「……必ず、取り戻す」
何処か決意を秘めたその声を聞いた者は、居たのだろうか……
いつしか蝋燭は燃え尽き、部屋は深遠なる闇に落ちていった……――
2016/04/16 22:26
[3]雫
※第一章※
~出逢い~
雪が、冬を迎えたばかりのロンドンに降り始めていた。
風に乗って舞う様は、まるで天使が落とした羽のよう。
ひらりとひらりと舞い降りては、水へと還り消えていく。
初めは舞うように降り始めた雪も、時間を追うごとに強さを増し、午後10時を過ぎる頃には、ロンドン中に雪化粧を施した。
「ふむ、雪に包まれたロンドンも実に美しい」
エルシャール・レイトンは、そんなロンドンを自身の研究室の窓から眺めていた。
彼は、デスクの右端に置いていたティーカップを取り、まだ湯気のたっている紅茶を一口飲む。
自然に自身のデスクの上に視線が行く。書きかけの書類に、本棚にしまいきれない膨大な資料が乱雑に積まれている自らのデスクに。
今日中にこの書類を片付けねば……。どうせ、この雪では車で我が家に帰る事は不可能であろう。
いつもの様にここに泊まる事も悪くは無い。
そう自問する彼の耳に、スースーと可愛らしい音が届く。
それを聞きレイトンは口元を綻ばせる。彼の背後にあるのは赤色のソファ。そこには水色のハンチング帽を被った少年が眠っていた。
自らレイトンの一番弟子を自称する少年、ルーク・トライトン。彼の両親が仕事の関係で、2週間預かってほしいという申し出を引き受け、昨日からレイトンと暮らしている。
先程まで、レイトンに渡された本を読んでいたが、流石にこの時間だ。眠くなるのもおかしくは無い。
レイトンは微笑を浮かべ、ルークに毛布をかけてやるべく、椅子から立ち上がろうとした。
その時だった。
彼の背後――数秒前まで眺めていた屋外――で、膨大な質量の何かが、屋根から落下した。その威力は激しく、衝撃が窓に伝わりギシギシと軋む音をたてた。
それは屋根に積もっていた雪だった。かなりの量が落下したのだろう。山の頂上が研究室の窓から見えるほどだった。
だが、落ちてきたものはそれだけではないことを、レイトンの目は捉えていた。
考えるより先に身体が動く。
突き動かされる衝動のまま、レイトンは研究室を飛び出した。
2016/04/17 21:28
[4]雫
勝手口を勢いよく開けた途端、目の前を吹雪が弾けた。
肌を刺す寒風がコートが暴れさせ、シルクハットの鍔を抑える手が凍てつく。
進行を阻むかのように大地に降り積もった雪をひたすらに踏みしめる。額に汗が張りつき、呼気が乱れ始めた頃、ようやく目的地に辿り着いた。
レイトンの腰の高さを有に越える程の雪山が、そこにある。研究室からもれる明かりに照らされ煌めく様は、いっそ見惚れてしまう程に美しかった。
だが、それだけではないものを、レイトンの目は捉えていた。
雪の中にある黒い塊。近づく程にそれが何なのか、はっきり視認することができた。
「なんというこだ」
冷静沈着な彼から滲み出る、困惑と焦り。
一見塊の様に見えたそれは、黒髪だった。こ の雪の中に、人がいるのだ!
レイトンは手作業で、雪の山を慎重に崩し始めた。一歩でも間違えば、中の人物は崩壊の渦に巻き込まれ、二度と出てこられないことを確信しているからこそ、作業は慎重を極めた。
そして、シルクハットの上部に、雪が堆積し始めた時、とうとう救出することが叶ったのだ。
「しっかりしなさい!」
強い口調で呼び掛け顔を覗きこんだ途端、動きが止まる。
寒さで凍てついた顔、固く閉じられた瞳。顔に残るあどけなさは、まだ十を少し過ぎたくらいの少年のものだった。
ふっふっと、短く荒れた呼気が、白い煙となって溶けていくのを見て、一先ず息があることに安堵する。
何故屋根から落ちてきたのかはナゾだが、考えるのは後だ。
とにかく今は、彼の冷えきった身体を何とかしなければ!
「先生! どうかしたんですか!」
少年を抱き上げ、来た道を振り返ったレイトンの目に、毛布を身体にくるませたルークの姿が映った。
異変を感じ、眼を覚ましたのだろう。いいところに来てくれた。
「話は後だ、ルーク! その毛布で、この子を包んで研究室に戻る! 手を貸してくれ!」
「はっ、はい!」
2人は協力して、少年を研究室の中に連れて行った。
そして、この出逢いが、新たな冒険の始まりになろうとは、このときの彼らは気づきもしなかったのだ――
2016/04/17 21:30
[5]雫
朝になった。
昨夜まで、重い雪雲が空を覆っていたことが嘘に思えるほど、柔らかな陽射しが降り注ぐ。
「う……ん」
その陽射しがカーテンの隙間から射し込み、テーブルに突っ伏すようにして寝ていたレイトンは、眼を覚ました。
重い瞼(まぶた)を開けると、昨日雪の中から助け出した少年が力なくソファに横たわっていた。
硬く閉じられた瞳。一瞬ひやりとするが、お腹の辺りが呼吸によって膨らんだり、縮んだりする様を見て、ほっと安堵の息を漏らす。だが、すぐにその瞳は険しくなる。
助け出した時、彼の身体にはたくさんの傷が刻まれていた。屋根から落ちたのだ、怪我をしていてもおかしくは無いが、明らかに落下によって出来た傷ではなかった。そもそも何故、こんな少年が、屋根に居たのだということ自体、疑問に持つべきなのだろうが。
――おそらく、この少年は何者かに追われているのだろう。もしかしたら、その命までも……
その寝顔は本当にあどけない。向かい合わせに置いてあるソファに眠るルークと対して変わらない、ただの少年のものだ。そんな少年が何故……。
「う~ん」
ふと、後ろのほうから声がした。視線をやると、ルークがもぞもぞと身体を起こしているのが見える。
少し寝癖がついた茶色の髪。まだ焦点の合わない寝ぼけ眼を手でこする姿に、少し笑みが漏れる。
「おはよう、ルーク。よく眠れたかい?」
途端、びくっと身体がネコの様に跳ね上がり、慌ててこちらを見て言った。
「はっ、はい! おはようございます、先生!」
元気に挨拶を返した彼だが、レイトンの後ろを見て、表情を曇らせる。
「どうしたんだい?」
「まだ目が覚めていないんですね……。大丈夫なのでしょうか」
やはり、突然表情が曇ったのは、彼の心配をしたからなのだろう。
レイトンはそんなルークに、優しい口調で話す。
「昨夜よりも呼吸が安定しているからね。早くても今日中には眼を覚ますのではないかい?」
レイトンの言葉を聞いて、ルークの表情がお日様の様にぱああっと明るくなった。さっきの曇り空はどこへやら。
「そうですよね!きっと今日、起きてくれますよね!」
トレードマークの水色のハンチング帽を被りながら、彼は嬉しそうに笑う。
「ははは、急に元気になったね。――では、ルーク。そろそろ朝食を食べようか」
「はい! 今、紅茶の用意をしてきますね!」
雪のロンドンに、紅茶の芳しい香りが漂ってきたのは、数分後だった。
2016/04/17 21:31