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レイトン教授と悪辣な島

バートン

「痛…っ」
座礁した小舟には穴が空き、これで島を出ることは不可能なようだ。
「大丈夫かい、ルーク?」
「はい…なんとか…」
投げ出された場所が、砂浜で良かった。
多少のかすり傷はあるが、僕も先生も大怪我はしていない。
帽子を深くかぶり直し顔を上げると、ロンドンでは決して見ることのない木々が…ジャングルがそこにはあった。

(タイトルのとおり、リレー小説を書いていって下さい。続きお願いします。決まりは特にありません。)

2009-02-04 21:02:26


バートン

その光景を目の当たりにして、一瞬躊躇した。
「ルーク!アトラさん!とにかく乗ろう!」
船の上からアンディ=フラットが手をさしのべている。いくら敵とはいえ、躊躇している余裕なんて僕らには残されていない。その手を借りて船へ上がる。それから間もなく、船は出発した。
呼吸を整えていると、アンディ=フラットが突然頭を下げる。
「秘宝のために…たかがあんな力のために、君達までをも巻き込んで、本当にすまない」
「謝って済む問題か!?王国が襲われた…」
先生が静かに制する。
「アンディ、私には君があんなことをするとはとても思えない。何か理由があったんじゃないのかい?」
こんな時でもきちんと相手の話を聞ける、大人な先生を僕は益々尊敬した。
「君らも悪魔の子の話は聞いただろう」
アンディ=フラットはうつ向いて言った。
「本当はあれは、私の兄のことなんだ。洞窟で指揮していた朱髪の男こそが悪魔の子」
僕達の誰もが驚き、目を見開いた。アンディ=フラットはやはり先生の旧友であり、あんな話はでたらめだと言うのだろうか。
すると、アトラが不意に口を開いた。
「ただ、お前は確かにラクーアだろう?見ればわかる」
さすが姫を名乗るだけある。人間とラクーアの違いを一瞬で見分けるなんて。
「ええ、その通りです、アトラ様」

2009-03-28 06:12:56


layton

「私はラクーアだ。私も人間とラクーアの間に生まれたが、次男だったので、兄のような悪魔の子にはならなかった・・・。私は兄がうらやましく、同時に恐れていた・・・。だが私は兄の力がほしかったのだ・・。だからレイトン、君に秘宝を見つけるように・・・。すまない、きみたちをまきこんでしまって・・・・。」

2009-03-30 16:17:10


バートン

「それは嘘だと思うよ」
皆が先生に視線を注ぐ。
「何故だレイトン。私は散々…」
「しかしアンディ、君は現に私達を救いにきた。もしかして、全て不本意だったのではないかい?」
その言葉に、アンディ=フラットがうつ向く。
ドレークさんは船を操縦しながらも、こちらちらちらと見ている。この耐えがたい沈黙を見兼ねた彼が言う。
「アンディ、もういいんじゃないか?いずれこうなるのは目に見えている。そうだろう?」
そしてついに、アンディ=フラットは口を割った。
「本当は…あんな恐ろしい力なんて要らない。この計画にも反対だったんだ…」
アトラはなんとも言えない複雑な表情で、話を聞いている。
「当初兄は、私と協力して力を取り戻すつもりだった。しかし私はこの計画には反対した。それが原因で私は幽閉されていたんだ。そして兄は、私の名を騙って計画を進めたんだ」
「でもなんで…何故僕達まで…」
「力を…秘宝を取り戻すためには、王族の言い伝えと、相応の知識が必要だったんだ。兄も何度も自ら出向いた。しかし、秘宝には辿りつけなかった。そこで、考古学者であり不思議研究家であるレイトンを必要としたんだ。君の話は昔から兄にもよくしていたからね。案の定、君達は秘宝を見つけ出した」
アンディ=フラットは一呼吸置いてまた話し始める。
「秘宝を手に入れたら、もう君達は用なしさ。手下を使って、3人とも抹殺されるはずだった。まあ、実際他のラクーアの手助けもあって、こうして生きているんだけどね」
僕達が抹殺。事実を知った物のは殺すということだろうか。
それにしても、なんという皮肉だろう。僕はアンディさんに酷いことをしてしまったようだ。
「朱髪の男の名はもしかして…レナードか?」
アンディさんが頷く。アトラが信じられないという顔をする。
「レナードは…かつて王族に使えていたんだ」

2009-04-02 07:55:04


バートン

「!?」
フラットの驚く顔を見て、アトラが問う。
「まさか…あんた、知らなかったのか?」
彼が静かにうなずく。
「…この話を持ちかけられるまで、兄とは絶縁状態だったからな。しかし…王族に仕えていたのなら、言い伝えを聞くチャンスなぞいくらでも…」
「ああ。彼は暴力に訴えて、私から言い伝えを聞き出そうとしたんだ」
そう言うと黄土色のパンツをめくった。
彼女の足にあったのは、いくつもの青や赤紫の痣。
「…!!」
全員が言葉を失った。
「アトラ様…」
「もういいんだ。ずっと前のことさ。その時、結果的にレナードに手を貸したこととされてしまったのが、サザンだ」
「サザンって…サザンさん?」
「そう。当時サザンと2人で私の警護を務めていたレナードは、仲間である筈のサザンを裏切って、襲撃した。あとでサザンから聞いた話だが、彼は私を守ろうと必死になってくれたらしい。
しかし、最終的に薬で眠らされたサザンには、もうどうしようもなくてそんなただのラクーアに、瞬殺のサザンがやられるはずがない、世間ではそう騒がれた。それに、当然サザンに目立った外傷もはなく、そのせいで、手を貸したとされ、城から追放された。この事実を私は親父に話したが、その時にはレナードはもう、カシスにはいなくて…」
そんなこと、1度も話してくれなかった。
先生も知らなかった様子だ。
「コルダさんは、この事実を知っているのですか?」
久々にレイトン先生が口をひらいた。
「いや、知らないはずだ。コルダが師匠として認めていないのも、そのせいだろうな…」
「何故誤解を解かないんですか?アトラも、サザンさんも…」
アトラがうつむき気味になる。
「サザンには、口止めされているんだよ。恐らく、弁解は諦めているんだろう。今更そんなこと言ったって、どうにもならないだろうしね…だから、サザンもそれについてが何も話さないんだ」
「でも…」
僕の言葉は、突然の船の激しい揺れによる悲鳴で遮られてしまった。
「ドレーク!!何事だ!!」
フラットが叫ぶ。振り向いたドレークさんの顔に焦燥が見られた。
「わからない!!船体に何かが衝突したみたいだ!!」
それを聞いたアトラがはっとして、立ちあがる。
身を乗り出して海中の様子を把握しようとする。
「大変だ…」
「どうしたんだい?」
ドレークさん以外の全員が、海を覗く。
海中で、何かが凄まじい勢いで移動している。
それは魚でも、イルカやクジラでもなく…
「レナード達が…」
アトラとフラットが顔を見合わせる。
僕には状況が把握できない。
「先生…一体何が…」
顔をしかめて、顎に右手を添えたまま、先生は黙ってしまった。
「恐らく、レナード達はカシスへ向かっている。親父がいない今のカシスの支配は、たやすいものだろう」
淡々と説明しながらも、握られた拳が微かに震えている。
それを見てか、フラットが口を開いた。
「この船はドックランドへ向かっている。だが…今カシスに向かえば間に合うかもしれない。アトラ様…どうしますか?」
カシスに向かえば、危険な目に遭うのは目に見えている。
しかし、国の支配を見す見すと見逃すわけにはいかないのだろう。
少し間が空いたが、その表情に迷いはなかった。

「カシスへ行こう。そして…一緒にカシスを救ってほしい……」

先生が声をかけるまで、彼女が深く下げた頭をあげることはなかった。

2009-04-23 19:20:09


L

−レナード達が移動する少し前−

藍色の長髪をなびかせ、サザンはレナードと刀を交えていた。
場に流れるのは張り詰めた空気のみ。
覚醒間際のレナードはサザンと互角に殺り合える力を持ち、双方斬っては受け、受けては払いを繰り返していた。
「…お遊びはここまでだ、サザン。貴様に私の本気を見せてやる。……その眼にしかと焼きつけて眠るがいい!!」
不気味な微笑を浮かべ剣を、持つ手に力を込める。
サザンの刀を振り払い、思いきり横に朱い剣をスライドさせる。

鮮血が虚空を舞い

サザンの細い身体が

宙に浮いた。

気づくとその身体は壁にめりこんでいる。
自身の敵で精一杯だった弟子達には、何が何なのかわかりやしなかった。

「ククク…諸君!瞬殺のサザンは死した!」
その声に反応し、剣や雄叫びが消える。
それと同時に、サザンの体が力なく地面に落ちた。
「さあ見よ!もう敵になるものなどない!いるのは腑抜けだけ…全軍退け!カシスへ向かうぞ!」
岩ばかりの洞窟内にその声はよく響いた。
それに呼応して、雄叫びが洞窟に、島に、空に、意気消沈しきった心に響き、大勢の狼が洞窟を駆け抜ける。
去り際、振り向いたレナードが静かに言った。
「サザンの弟子諸君…せめて亡きがらを埋めてやるといいさ」
そう笑うとレナードは狼に姿を変え、全軍を追い抜いて海へ向かった。
コルダもダリルも、奴を追う気にすらもうなれなかった。
体力はまだまだ残っている。気力の問題だった。
「師匠!!」
「サザン様!!」
口々に叫びながら弟子やダリルの集めた生き残り達が、固く眼を閉じたサザンの周りに集まる。
「聞いてませんよ師匠…。溜め込んだ団子代返して下さい!!……というかせめて…せめて名前を覚えて…から…ッッ!」

歯を食いしばっても目から涙がこぼれ落ちる。
悔しさと、サザンへの思いが、形となった瞬間だった。

皆が諦めたその時。
ひどく懐かしく思える声が聞こえた。
低いけれどどこか優しい声。
「…なんだこの空気は」
皆が顔を上げた。
「よっこいしょっ‥と」
「!?」
何事もなかったかのように起き上がるサザン。
何匹か後ずさりをしたのも仕方のないことだろう。
「待てよ‥お前らまさかとは思うが、俺が死んだなんて思っちゃいねぇだろうな?」
「…いえ…」
するとサザンは高らかに笑って答える。
「相変わらず間抜けだな、ちび。これしきで俺が死ぬわけないだろ?」
「でも、レナードが…」
「ああ、なんか言ってたな。実は俺は無傷なんだ。ほら、あっち」
顎で差した場所には、一匹の傷ついた藍色の狼。
「驚いたか?奴の援軍の1人さ。攻撃をうけたのはそいつ。直前に引っ張ってきたんだ。いやー、丁度良かった」
のうのうとしているサザンに、一同騒然とする。
「まあ、さすがにあれを受けちゃ、俺も死んでたかもなあ…」
そしてダリルは小さくつぶやいた。
「…こんな師匠‥」
「あ?なんかいったか?」
すかさずつっこまれ、少し焦るダリル。
「まあいいか…」
一息いれてサザンは続けた。
「さて、これからが本番だ。俺もさっきみてーな
失敗は犯さねぇ…ついてこれる奴だけ来い。去る者は今のうちに去れ。以上だ」

全員で返事をし、傷だらけの師の背中を追ったのだった。

直後、サザンとダリルは走りながら言葉をかわした。
「ダリル」
「はい?」
「団子…あるか?」
「ないです!!こんなときになんですか!!」
このときは流石のダリルも、わかりやすく怒っていた。
しかしその裏で、師匠の生存を喜んでいたのであった。

2009-04-25 23:01:50


L

「というか師匠、今ダリル…って」
「あ。…いや、聞き間違いだ。ちび」
「あ、師匠ー!!」
その瞬間、サザンの走るスピードが早くなり、ダリルは取り残される。
こんな状況下で不謹慎かもしれないが、サザンが去った後に、思わず笑みがこぼれてしまった。

2009-04-25 23:06:18


バートン

しばらくして、船体が再び揺れた。
しかし、今度は先ほどのような激しい揺れではない。
周囲を見回すと、船の縁に、何者かが立っていた。
一瞬警戒するも、それが誰かわかった途端に、安堵の息が漏れる。
「コルダ」
駆け寄るアトラ。助けを求めるような、嬉しいような、そんな表情でコルダを見つめる。
その瞳には、涙さえ見られた。
「良かった‥本当に‥」
僕は、その涙の意味を悟った。
しかし、そのアトラをそっと引き離し、深刻そうな顔をするコルダ。
更なる緊張感が、船上を漂う。
「皆様もご覧になったでしょう、あの軍を。我が師率いる軍も同じく、カシスに向かっています」
「死者は…でたのか?」
フラットが問うと、コルダが静かに、首を横に振った。一同ほっと胸を撫で下ろす。
「ところで…秘宝は?」
その言葉にはっとし、きょろきょろとする。
そんな僕を見てか、先生が言った。
「ルーク…私は、君が秘宝を持っていると思う」
「!?」
慌ててポケットやバッグを弄るも、出てきたのは手帳や非常食ばかり。
あの時、僕が秘宝に手を出した瞬間、何か…とてつもない何かに襲われた…
気づいたら先生に手を引かれていて…
結局、僕は秘宝を手にしては…いない。
「アトラ様?」
僕が1人混乱する中、フラットが再び口を開く。
アトラに目をやると同時に、目が合った。
それは一瞬だけでない。彼女はじっと、僕の顔を見つめているのだ。
「な‥何?」
「目、見せて」
「え?」
よく聞き取れないうちに、彼女が僕に歩寄ってくる。
彼女のつめた手が、僕の両頬に触れる。
僕がそこで大きな勘違いをしてしまったことを、後にかなり恥じた。
「いいからじっとしろ!目逸らすな!!」
彼女の口調がつよくなり、従わずを得なかった。
ものの10秒で、彼女は再び口を開いた。
「あんたの言うとおりだよ、レイトン…」
…?
「なあ、コルダ、これからどうしたら…」
「申し訳ありませんが、私には…」
みんなして、何を言っているんだ?
様子を見る限り、フラットさえも状況を把握しているらしいが、自分にはさっぱりわからなかった。
「僕、秘宝なんて持っていません!!」
ありのままお話した。
しかし、そこであることに気づく。
もしあの場に秘宝があったとすれば、レナード達はカシスへ行く必要はないのではないか?
とすれば、こちら側の誰かが秘宝をもっていることとなる。
先生やアトラは、その誰かを僕だといっているわけだ。
「教えて下さい。僕は何をしてしまったんですか?」




「アトラ様、カシスに着いたら、私と城へ…」
「嫌だ。私も応戦する」
コルダの言葉を遮り、固い意志の下に却下する。
「できません」
それに素早く反応し、言葉を返す。
「なんで!」
アトラの反応も、また早かった。ムキになっているようだ。
「ドルトン様の言葉をお忘れになったのですか!?」
自然とコルダさんの口調が、きつくなる。険しい表情が、断固として許さないことを表している。
彼女も、王の最期を思い出したのだろう。渋々ながら、諦めたようだ。
「…わかった。でも、ならコルダだけでも応戦してほうしい」
「しかし…」
彼は、アトラを守らねばならない。
「私なら大丈夫!自分の身くらい守れるよ!」
コルダさんの責任感の強さを、彼女はよくわかっているのだろう。
そう言って見せた笑顔に、胸が痛んだ。あの時約束したのに、心配はかけまいと笑顔を振りまくアトラ。
そんな彼女を見かねて、僕は言っていまたのだった。
「な…なら、僕が代わりにつきます!!」
続いて先生も。
「ルークだけに任せるわけにはいかないからね」
コルダさんは僕らを見て、頼んだというように頷いた。
「あとは…」
アトラが言った。
「アンディ=フラット…」
「ああ…こちらの者として戦わせてくれ。せめてもの償いに」
その様子から、彼が自分の過ちを理解し、酷く悔い、反省しているようだった。
「島が見えたぞ!!」
そして、計算していたかのような絶妙なタイミングで、ドレークさんの声がかかった。
前方に、1つの島が見て取れる。
『カシス』人間の言葉で『希望』…いつかそんなことを聞いた。
だが…アレが希望の国?
遠くからみても、酷い有様だ。
「酷い…酷すぎる…あんなのカシスじゃ…」
アトラさえも、この現状は受け入れられないようだった。
…恐らく、あの島で決着がつくだろう。
そのためには、犠牲者がでるかもしれない。
たとえ王族を襲ったとしても、同じラクーアを傷つけたくない…そんなアトラの気持ちは痛いほどに伝わってくる。
だからこそ、僕もしっかりしなければならないんだ。

サークリスの生まれ変わりとして、秘宝の力を手に入れてしまった身でもあるからこそ。

2009-05-06 14:06:07


蕎麦(代筆バートン

殺して殺して殺す。
女、子供だろうが
何だろうが。
この私が統べる国に
弱き者などいらぬ。
だから殺すのだ。と
心に決めたのはいつの
事だろう?
…あの姫君に仕えていた頃…無駄に髪の長い、
まっすぐな眼をした男と
城にいた頃だろうか?
私は弱き者で溢れ返る
この地が嫌いだった。
殺す理由といえば
弱き者の泣き叫ぶ声を
聞いたり、血の鉄くさい
匂いを嗅いだり、肉片が
飛び散る様を見たかった。…ただそれだけ。

そんな理由で殺している
など知ったら
貴様はどんな顔をする?
ルリ……いや、サザンよ。きっと貴様の事だ
眼の色を変えて私に
斬り掛かって来るだろう。…だがもう貴様は死した
私は誰にも止められぬ。
止まらないのだ。

自分でも分かるくらい
不敵な笑みを浮かべ
手下に運ばせたワインを
一口飲む。
「あとはサークリスだけ」そう呟いた横顔が
よほど恐ろしかったのか
脇に控えていた狼の顔が
強張る。いつか殺される
んじゃないか。そんな光が眼に宿っている気がした。…今、少しだけ
失敗した気分になったのは何故だろう?
自分でもわからない。
何を失敗したと思ったかを根本的な理由がわからない心の内に問うても
何も返ってこない。
私は深く息を吸ってから
闇色に塗りたくられた
空を見上げる。
先程、自分が手に掛けた
旧友の髪もこんな色だった
…私はさっきから
何を考えている?
奴のことばかりではないか一番死んで欲しいと
願っていたではないか。
一度裏切って、責任も全て奴に押し付けて
友情という物を心の
奥深くに沈めたではないか
きっとこの月が悪い…
今日に限って満月だから
こんな気持ちにさせるのだ
ならいっそ…この月が
朱く染まるほどの血を
虚空に散らせ
地に朱い花を咲かそうか。もうすぐだ。もうすぐ
この国から弱き者が消えるそして…今以上に
血の…鉄くさい匂いを
嗅げる事だろう。

……決戦は近い。

2009-05-06 22:17:54


バートン

殺気立った城側にくらべ、その反対側はいやに静かだった。
小雨が、僕らの頭を濡らす。
コルダさんとフラットは船を降りると、あっと言う間に森の中に消えて行ってしまった。
森をぬけたところで、ラクーア達は衝突しているらしい。
僕と先生とアトラは、少し遠回りではあるが、地下道を行くことにした。
アトラを守るはずの僕らが、彼女について歩く。
「ね、あんたたち、泳げるの?」
海岸に沿って歩きながら、アトラに問われた。
「一応…」
「そう。それなら大丈夫…」
彼女が急に足を止め、海に手をかざす。
「アト…」
「黙って」
その手に力が入ると同時に、海の水が…割れた。海に穴があく。
これがラクーアの力。改めて、その凄さを実感した。
そのまま、彼女は海へ飛び込む。
中で、僕らを呼ぶ声が反響している。
アトラと先生に続いて、僕も恐る恐る中に入る。
勿論、服は濡れない。息も吸えるし、水の上なのに歩ける。
辺り一面、青々としていた。
しかし、海岸側は違う。大人1人立って入れるほどの、穴が、そこにはあった。
先生とアトラは、突き当たりの梯子をもうう上がっていた。
急いで2人を追い梯子を上がる。
そこには悪辣な島の洞窟と変わらない、岩の世界があった。
上がりきると同時に、さっきまであった穴が、海水で満たされる。
「…疲れるんだから、早くしてよね」
その態度は気にくわなかったが、英国少年として、謝るのは当然だった。

それから、僕らはとにかく足を進めた。
アトラを先頭に、彼女の歩いた道をたどって、ひたすらに歩く。
もう、どのくらい歩いたかわからなかった。
歩いても、歩いても、あるのは岩ばかり。
動物もいなければ、緑もない。
話すなんて余裕は、誰にもなかった。
3人の体力も、精神面も、疲労が限界に達しようかというその時だった。
突然、もの凄い音と共に、目の前の岩が崩れ、僕らの行く手を阻んでしまったのだ。
空いた穴から、さっきよりずっと多くの雨が降り注がれる。
秘宝の力で音に敏感な今の僕が2人を止めなければ、今頃瓦礫の下だ。
「うおおおっっ!!!!」
呆然としていると、穴より、叫びと共に、一匹の狼が落ちてきた。
そのなりから、敵軍だということがわかる。
穴の上から顔を覗かせているのは、こちら側の狼。
アトラに気づくと会釈するも、すぐに戦いに戻る。
「とにかく、瓦礫をよけよう!」
重い岩を、僕らは必死によけた。しかし、その数は想像を越えていて、地下道に水たまりができようとも、その作業が終わることはなかった。
先生や僕はともかく、アトラの辛そうな表情が気になる。
心配をかけないように気張る彼女だが、その体は悲鳴をあげているらしい。

…なんて、よそ見していた。そのおかげで、僕は気づくことができた。

彼女の背に、1本の矢が迫っているのを。

足に、全ての力を込める。
全力で地を蹴るも、岩に足を取られ、思うようにはいかなかった。
時が、ゆっくり過ぎる。
間に合わない…矢が、彼女のすぐそこに…

2009-05-11 16:30:49


バートン

…間に合うはずがなかった。
背に矢が刺さり、倒れ込む彼女を目の前に、僕は一歩も動けなかった。
呆然と立ち尽くす。
先生が事態に気付き、瓦礫の山から彼女を降ろす。
それはまるで映画か何かを見ているように感じられた。
「ルーク!」
その声で僕もようやく瓦礫の山を降りる。
僕は今悲しいのか?寂しいのか?悔しいのか?…もう、何もよくわからなかった。
彼女の傍に膝をつくと、涙が勝手に溢れ出した。
何を思うわけでもなく、ただこれまでの約1週間の彼女との記憶が映像化され、頭の中を流れていく。
気力も体力も、もう残ってなかった。
しかし…僕は立ち上がる。
彼女がいつも腰に備えている短剣を片手に。
瓦礫の山の一番上に登り、雨の降る地上に出る。
飛び交う矢に振り回されている刀。雨に流されゆく赤黒い血。
そんなモノには目もくれず、あちらこちらに転がる死体を踏みつけさえして、この体は進んだ。
靴を伝わり感じる抜かるんだ土の感触を鮮明に感じながら、ゆっくり、獲物を捕らえようとするトラのように進む。
かと思えば突然、人でないような足軽さで、見据えた先へ突っ込んで行った。
風を切り、吐き気を催す程の血の臭いをものともせずに突き進む。
見据えるはただ一点。
そこへ向かうべく、敵勢をたった一本の短剣で撒き散らす。
襲いかかる刀はするりとかわし、隙をついて刺し、切り裂く。
身は驚く程軽く、今までにない程調子が良かった。
がしかし、獣の如く、手当たり次第に襲う自分が恐ろしいとさえ感じつつあった。

怖い…
死よりも、傷つくことよりも…
自分自身が1番怖い…

誰か助けて…


その時だった。
不意に背中に温もりを感じる。
「ルーク!!止まって!!」
暴れる僕の身体を、彼女は必死に押さえてくれている。
僕を呼ぶ彼女の声が、雨音よりも、ラクーア達の叫びよりも、刀がぶつかりあう音よりも、何よりも、はっきり胸に響いた。
徐々に身体が落ち着きを取り戻す。
血のまみれたまま振り返り、弱った彼女を見つめる。
その背景には、僕が蹴散らしてきたラクーア達が大勢転がっていた。
そこへ、先生もやってくる。
「アトラ…先生…っ」
恐怖から解放された安心から、再び涙が溢れだす。
しかしそれもつかの間、僕らには使命が残っていたことに気づく。
レナードを止め、カシスの完全なる支配を止めねば…。

2009-06-02 20:23:37


バートン

我に返ったルークは、あることに気づく。
先程目にした、彼女の痛々しい姿。
背に刺さった矢。
溢れだす鮮血。
意識も朦朧としていた彼女は、何故ここに立っているのか。
それを問うと、彼女は言う。
「あんたの気にするところじゃない。それよりも…」
そう言いながら、彼女は自らの服で僕の身体を濡らしている血を拭き取る。
実際には、伸びて終わったのだが。
彼女に悟られぬように背中を覗こうとした、その時。
不意に彼女が口に手を当て、咳き込み始めた。
指と指の間から、赤黒い液が流れている。
何もできず呆然と立ち尽くす僕の横から先生の手が伸びる。
咳は激しくなる一方で、ついに立てなくなった彼女はその身を先生に預ける。
「ルーク!!私の鞄からハンカチを!!」
「はっ…はいっ!!」
背の傷を片手で押さえ、必死に血を止めようとする先生。
やはり、傷が塞がったなんてわけでなかったか。
では何故彼女はここまでこれたんだ?
しかもあの勢いで。
僕を押さえるのにも相当な力も要しただろう。
ねぇ、何故?
問いたくても、彼女は可能な状態にはなかった。
僕が渡したハンカチも使い、先生は応急処置を施す。
僕はその横で、彼女の名をひたすらに叫んだ。

2009-06-26 22:00:49


L

その時、僕らの前に空色と、からし色の二匹が現れた。
とは言っても、血や泥で汚れてしまっているが。
一匹はわからないが、一匹はダリルさんだ。
ダリルさんが喧騒に負けぬよう、大きな声で話しかけている。
それは僕にも向けられているようだが、それを聞いている余裕などない。
というわけで、何を話していたのかはわからない。
状況から把握できることは、ダリルさん達がアトラさんをどこかへ運んでくれるということ。
処置を済ませた先生は、彼らの背に傷ついたアトラを乗せる。
走り去る彼らの後ろ姿を見ながら、僕は祈った。
カシスが、ラクーアが、彼女が救われるようにと…―。

2009-06-27 21:03:18


バートン

「ルーク、気持ちはわかるが、私達にはやらなければならないことがある」
目を閉じて、あの曇天の下、砂浜で彼女と話したときのことを思い浮かべる。
「そうですね」
あのときアトラは決して言わなかった。助けて、と。
けれど、言わずともその声は届いていたんだ。
目を開き、現実の世界を見つめる。
「すみません先生」
雨と血に濡れた、酷い世界を。
これが終わるのは、
悪魔の子が滅びたとき

あるいはカシスが…滅びたとき。

決して後者であってはならない。
それを防ぐために、僕は今何ができるのか。
答えは1つ。
先生となら、困難も乗り越える自信がある。
「僕、もう大丈夫です」
目前に聳え立つ城を見上げ、僕は決意を固めた。
短剣を強く握りしめる。
「行きましょう」
力強く頷く先生が、なお勇気を与えてくれた。

2009-06-29 22:41:56


L

レナード軍が大勢いることを予想し、恐る恐る半開きの大きな扉をくぐる。
しかし城の中は、整然としていた。
荒らされた様子も無ければ、血痕もない。
「なんだか…何もなさそうですよ?」
「油断してはいけないよ。慎重に進むんだ」
そう言われ、前をしっかり見据える。
それにしても、とても広い。
天井はとても高く、立派なシャンデリアがぶら下がっている。
目の前の階段もとても大きい。
一体、この広い城のどこにレナードや、レナード軍はいるのだろう。
右手にアトラの血糊のついた短剣、左手には先生のコートの裾を持って、怖々と進む。
広い城の中に、僕らの足音だけが響く。
先生には行くべき場所がわかっているのか、足取りはしっかりとしていた。
辺りを見回しながら、階段の1段目に足を掛けた時。
何かが僕の帽子をかすめた。
「な…わ、わあっ!!!!」

2009-07-22 22:39:52


無玄

「大丈夫かい?ルーク」
先生は振り向く。そして僕の後ろの方を見て悲しそうな目をした。僕はその視線の方に目を向けた。

そこに倒れていたのは…、
傷だらけの狼だった。

「うわぁっ!!」
僕は驚いて先生にしがみつく。
先生は怯える僕の背中に手を置きながら

「アトラ達の先発軍のアクーラだろうね、
 可哀相に…。」
と山高帽のつばをさげた。

「どうして、こんな…。」
僕の中にどうしようもない悲しさと悔しさと怒りが込み上げた。誰に対してとははっきり言えないが、押さえ込むだけで精一杯の強い感情だ。

「…けれど、これではっきりしたね。」
「何がですか…!!」
この抑え切れない強い感情の矛先が先生に向いてしまったことを、僕はすぐに後悔する。
しかし先生は何も気にしていないように僕を見て、優しく頬笑んだ。

「大概は、建物の中にいる黒幕は、
 一番上か一番下にいるものさ。
 そして 彼(アクーラ)は上から落ちて来た。
 ということは、黒幕が上にいる確率が
 高いということだ。」

「いつもの…勘ですね、先生。」

僕はいつものセリフを口走る。このやり取りのおかげか、少し雰囲気が和らいだように感じた。僕と先生はにこりと笑い合うと傷だらけのアクーラを優しく壁側に動かして、 勝つことを、この国を守ることを約束した。
それから僕らは城の最上階へと向かった。

2009-07-27 16:02:00


バートン

階段を上がり、最上階を目指す。
そういえば、ここの玄関ホールは、フォルセンスのフェルーゼン家の城と似ている気がする。
静か過ぎるところまでそっくり。
今にも執事のクロイさんでも出てきそうだ。
ほらそこに、立って…
「えぇっ!?」
ありえない!
クロイさんはもう…というかここは孤島カシスだぞ?
「どうしたんだい、ルーク?」
「あ、あれ…」
彼を指差し、思わず後ずさりする。
「ほう…私が見えましたか。気配を消していたのですが…やはり秘宝の力は伊達ではないらしいですね」
闇から出て来たそいつは、クロイさんなんかではなかった。
携えたナイフや口の周りには、血糊がべっとりとついている。
薄紫の彼に、僕らは見覚えがあった。
「あなたは…」
先生の険しい顔が、一瞬緩んだ。
「トールスさん!」

2009-08-10 13:09:52


バートン

間違いなく、トールスさんだ。
けれど何なのだろう。この違和感。
よく見ると、彼が歩いたであろう場所には、一筋の蘇芳色の線が残されている。
それを辿り行き着いたぼは、彼の右の後足。
違和感正体はこれか?
「足、大丈夫ですか!?血が…」
僕の問いに対して、何も答えようとしない。
心配になって駆け寄ってみる。
そして足に手をのばした、その時。
「ルーク!」
先生の声にはっとし、振り返る。
そこには鋭い牙をむき出しにした、殺意に満ちたラクーアがいた。
このラクーアはもう…トールスさんじゃない。
僕は身をひるがえし、間一髪のところでよける。
転がる力を走る力にかえ、とにかく一目散に逃げた。
何故こんなときに限って秘宝の力は使えないのだ。
あの力があれば、きっともっと速く走れるのに。

…彼の足の怪我がそのスピードを徐々に奪っている。
それが僕にとっては唯一の救いであった。
だがしかし、もう駄目だ。
紫のラクーアが、もうすぐ後ろにまで来ている。

2009-08-16 15:21:36


無玄

紫のアクーラが僕を鋭い爪で捕えようとした瞬間、僕は彼の前から消えて見せた。いや、かっこよく言うのはやめよう。…ただ単に転んだだけだ。こういう時に限ってドジを踏むんだ、僕は。

僕は、恐る恐る振り向く。そこには血に飢えた獣がギラギラした瞳で僕を見つめていた。どうして、彼をトールスさんだと思ったんだろう。でも、あの時聞こえた声は確かに…でも…。様々な考えが頭の中をぐるぐる回る。そんな僕にお構いなしに紫のアクーラは爪をたてた片手を高く振り上げた。僕は怖くて顔を背けた。刹那、僕の視線の先で、後方から投げられた石の破片が僕の足元で大きくバウンドした。そして、僕の前に居る彼の手首と左目を傷つけた。
「ルーク、こっちだ!」
声の方を見ると先生が僕に向かって手を伸ばしていた。僕は必死に立ち上がる。アクーラが痛みに悶えている間に先生の元に。けど それよりも…速かった。紫色の影は僕を追い越して、自分に手傷を負わせた相手に向かって猛進する。相手はもちろん…
「逃げて…逃げて!先生!」
僕は叫んだ。けど、先生は動かなかった。いや、動けなかった。または動こうとしてたのかもしれない。それでも、僕が振り向いて叫んだ時には、もうアクーラと先生の間は数mもなかった。
このままじゃ…先生が…。
「先生!!!!」
でも、僕には何も出来ない。誰でもいい。誰か、誰か…
「誰か…助けて!!」

−ガキッ

それは上から降って来た。そして先生とアクーラの間にサーベルが突き刺さり、金属と金属が交わる音がして…、現れたのは紫色の青年だった。
「全く…本当に俺とこいつを勘違いするとは。」
青年はちらりと僕を見る。それから正面を向くとぽそり
「ま、俺も悪いか…。」
と呟いた。
「本当に?本当にトールスさん? なんで…?」

2009-08-20 11:05:44


バートン

先生は応戦するつもりだったようで、両手を構えていた。
呆気にとられ、先生がその手を降ろす。
「話はあとだ!先に行きな!」
「でも…」
先生は躊躇する僕の手をひく。
その表情から、ここは従うべきであることが汲み取れる。
心配はあったが、先生に逆らうわけにも後について行かず走り出す。
その時、トールスさんは小さく言った。
「小僧……こういうのは自分で落とし前つけるもんだぜ?」
その言葉に1度だけ振り返る。
こんなことは考えたくないが、その言葉が彼の死を意味しているように聞こえたから。
紫の2頭のラクーアの力は互角らしい。
両者一歩たりともひこうとはしない。
こうして見ると、2頭の違いはよくわからない。
しかし、片方からはトールスさんらしさが見られた。
彼は一瞬だけにやりと笑みをつくったのだ。
それに安心し、僕はそれ以降振り返ったりはしなかった。

2009-09-18 22:27:02


バートン

「ルーク、怪我はないかい?」
長い廊下を駆けながら、先生は僕に問う。
実は転んだ時にすりむいた膝が痛んでいる。
しかし先生に心配はかけられない。
「平気です!」
僕は当然ながらそう答えた。
それ以外会話はなく、ひたすら走った。
廊下の突き当たりの鉄の扉を目指して。
到達する頃には、僕も先生も肩で息をしていた。
それは扉というより、穴に填められたまったいらな鉄の板のようだった。
僕はそれを勢いよくあけた。
つもりだった。
…開かない。扉が開かない。
押しても開かない。ノブもないから引くことができない。
鍵穴も見当たらない。
今まではパズルがあったりもしたが、それすらもない。
勢いに任せて何度も体をぶつけるが、それでも開くはずもなかった。
わずかに開いた隙間から漏れる光。
それが余計に絶望感を増大させた。
「ここまできたのに……」
肩を落とす僕に、先生は言った。
「解けないナゾは絶対にない。よく考えてみよう。……ルーク、これは使えるかもしれないよ?」
先生が差し出したのは、扉の横に立て掛けられていた鉄の棒。
先は薄く、平べったくなっている。


ナゾ 開かない扉

押しても開かない。
引くことも不可能。
鍵穴もパズルもない。
使えそうなのは先が平べったくなった一本の鉄の棒。
一体どうすれば…

(答えは下に)


「わかった!」
僕は平べったくなった先を僅かな隙間に挿し込み、反対の端を力いっぱい横に押した。
初めはかなりの力を要したが、ある程度開けると急に軽くなり、僕は転びかけた。
そう、これは横に引く扉だったのだ。
「大丈夫かい?」
「はい……」
そしてその向こうにあったのは…

2009-11-30 02:33:57


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